今泉力哉『街の上で』

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下北沢を舞台に紡いだ群像劇。自主映画への出演依頼が舞い込んだ青年の数日間と、女性たちとの交流を描く。

『街の上で』には「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」というテーマがある。街の中に流れている時間はばらばらで、現在のこと、過去のこと、誰にも見られないまま流れていってしまったことが当たり前に共存している。些細な出来事の連なりが今を作り上げていることを再認識する。

好きだった場面をあげると、全編になってしまうので、特にこの映画を観て良かったと思える場面を。高橋町子(萩原みのり)が荒川青(若葉竜也)が働く古着屋に自主映画の出演を依頼する場面。台詞なしで本を読んでいるだけでいいと言われるのだけど、ポスタービジュアルにもなっている青が働いている古着屋で本を読む姿がすごく良い。人がひとりでいて何かに集中している顔が好きです。後に異なる理由で青が抜擢されたのかと示唆されるシーンもあるけど、青がひとりで本を読んでいる姿に撃ち抜かれたんだとだと信じています。人がひとりでいて何かに集中している顔って現実で不躾に見つめるのは良くないことだと思ったりしていて、そういった表情がまじまじと見れるのは映画やドラマ、ドキュメンタリーだけだなと思う。城定イハ(中田青渚)の家での長回しの場面。青とイハの間に何かが生まれそうな空気感、距離感を探るときのお茶を飲んで間を埋める様子に身に覚えがあった。青が帰宅して床に倒れ込んで別れた彼女の名前を呟く場面。青だけじゃなく、他の登場人物も部屋でひとりでいる時の寂しい時間は存在していて、それぞれの寂しい時間を想像した。

日常の記録のような映画で、全編を通して会話がじっくり撮られている。会話って繊細だなと改めて思う。そして起きなかったことへ想いが馳せれるのもこの映画の好きなとこです。一昨日、今泉監督が若葉竜也さんがやっていたインスタライブの中で劇中に出ていた警察官のスピンオフが見てみたいという話が出ていて、この映画の登場人物の生活をもっと見たいと思っていたので現実になればいいなと願う。

これまで二回観に行って、一回目は先に観ていた遠くに住む友達に観賞後、興奮を抑えきれず電話をして感想を話し合った。二回目は映画館を出て街を歩きたいなと思い以前通っていたカフェバーが併設されている古書店に久しぶりに向かうと、カウンターでサイモン&ガーファンクルが爆音で流れる中、コロナ渦について激論が繰り広げられていて、あまりの熱さに入っていく勇気を持ち合わせてなかったので古本を一通り見て、またの機会に訪れようと思った。